愛を、ください。
今度は真っ黒な世界に放り出され、誰もいない。声を出しているつもりなのに、その空間にはなんの音もしなかった。
怖くなり、光を求めて目を開ける。すると、かすかに明るくなり、誰かの声が聞こえた。
…誰?
ぼんやりと見える誰かが怖くて、ヒュッっと声にならない音が喉から聞こえた。
高木さんだった。
握られている手を振り払い、ガクガクと震える体を抑える。
それでも中々止まらなくて。
がしがしと爪が腕に食い込んだ。
「藍、だめ」
そう言って搔きむしる腕の上に高木さんは自分の腕を乗せた。
縋るものがなくなって、さらに怖くなり、唇を噛む。ぷつっ、と血が流れた。
「やだっ…えっ、くっ…やだっ、やだっ」
「藍」
「やだっ、やだっ」
高木さんがよんでいる。聞こえているはずなのに聞こえなくて。
「や、や、いやっ…うっ…!」
だんだんと気持ち悪くなり、胃からなにか押し寄せてくる。
吐いたら怒られると思い、それに噎せ返る。
それでも吐き気は止まらなく、吐く寸前でビニール袋が口にあてがわれた。
出るものはなく、胃液しか出なかったが、その間ずっと背中をさすってくれた。
「…ぐすっ、やだ、やだ」
「大丈夫だから」
そう言われて初めて夢を見ていたんだと気付いた。