恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
ただ曖昧に微笑んで、今度はあたしに振ってきた。


「陽妃さんの彼は、確かフォトグラファーなんですよね」


「うん。今カンボジアに行ってるの。アンコールワットの写真を撮りに」


「どんな人ですか」


「ひと言でいうと、自由気ままなノラネコみたいな人かな」


「そうなんですか」


「うん」


再び、沈黙が訪れた。


今度は長い沈黙だった。


そのしじまを破ったのはやっぱり海斗で、


「そうだ、写真と言えば」


と、鞄からガサゴソとショップ袋を引っ張り出した。


「ここに来る前、ちょっと原宿に寄って来たんですけど」


「何か買ったの?」


「……見ます?」


海斗が見せてきた物を見て、思わず吹き出しそうになる。


それは、男性アイドルグループの公式写真の束だった。


「海斗、こういう趣味があったんだ……意外」


笑いをこらえながら聞くと、海斗は慌てた様子で「違いますよ」と肩をすくめた。


「美波に頼まれて。東京行くなら買って来いって。東京のショップでしか買えないからって」


「へえー。美波ちゃん、ニノが好きだったんだあ。メールにも手紙にも書いて来ないから知らなかった」


「そうなんです」


「えー、水くさーい。言ってくれたら送るのに」
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