恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
すごいな、海斗。


あの頃はまだあどけなさが残る中学生だったのに。


今はもう、あたしとは住む世界が違う大人の男の人になってしまった。


これから海斗は、この手で、何千何万何億の命を救って行くんだ。


もう、あの頃には戻れない。


「……じゃあ、美波ちゃんと葵ちゃんにもよろしくね」


と、手を離そうとしたけど海斗は離そうとしない。


繋がったままの手をじっと見つめて、何か考え込むように黙り込んでいる。


「海斗?」


「……」


「海斗」


2度目でようやく我に返ったのか、海斗が弾かれたように顔を上げた。


「あっ」


「どうしたの、大丈夫?」


正直、戸惑った。


顔を上げた海斗が、困惑した自分に困惑していたから。


「具合悪い?」


「いえ」


海斗が首を振る。


「陽妃さん……おれ、本当は酷い男なのかもしれない」


海斗はそっと手を離し、伏し目がちに苦笑いした。


「10年も付き合ってきたのに。一緒にいたのに。最近、葵のことがよく分からないんです」


「……うまくいってないの?」


「いえ、そういうわけじゃないと思います。ただ……結婚の話になると、葵、困った顔になって言うんです」


海斗が傷ついたような顔で肩をすくめる。

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