恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「本当にそれでいいのか、後悔しないのか。結婚する相手が自分でいいのかって。葵、言うんです。もう一度ちゃんと考えて、後悔しないように、って」


それを聞いて直感した。


今夜、彼女が来なかったのは仕事が理由じゃなくて、来れなかったわけでもなく。


自らの意志で来なかったのだと。


葵ちゃんは不器用な子だ。


あたしに気を使った、もしくは、彼女なりのカケなのだろう。


そして今頃、葵ちゃんは何も手に着かないほどの不安を抱えて、海斗からの連絡を待ちわびているのではないだろうか。


「“本当は他に大切な人がいるんだよ”なんて変なこと言い出す時があるんです」


あたしはごくっと唾を飲み込んだ。


「もしかしたら、葵はおれと別れたいのかもしれません」


そう言った海斗に、あたしは首を振って微笑んだ。


「それはないと思う」


「でも……」


「だって、海斗のこと誰よりも理解してるのは」


あたしじゃない。


「葵ちゃんだもん」


あたしの知らない10年分の海斗を、葵ちゃんは知っている。


支えて来たのも葵ちゃんだ。


そんな葵ちゃんに、逃げ出したあたしが適うわけないのに。


もしかしたら、この10年、葵ちゃんは海斗の側で不安な毎日を送っていたのかもしれない。

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