恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
『オートバイに乗ったふたり組の男に現金やパスポート、ビザなどが入った鞄を奪われそうになり抵抗したところ、銃で足や腹部数ヶ所を撃たれました』


それは、事件に巻き込まれた邦人の臨時ニュースだった。


『男性の身元は現在確認中で、地元警察は逃走したふたりの男の行方を追っています。また』


あたしはごくっと唾を飲み込み、テレビに背を向けた。


『被害者の男性は市内の病院に運ばれ、懸命な治療を受けていますが、現在も意識不明の重体ということです』


そして、大きく深呼吸する。


大丈夫。


絶対、違う。


今までもこういう類のニュースは何度も見ているし、その度に心配で不安で気が気じゃなかったけど。


一度だって彼の名前が出ることはなかった。


今回だって違うに決まってる。


潤一のことだ。


毎度のようにけろっとして、明後日には帰って来るに違いない。


エアコンが効いて室内は涼しいはずなのに、汗が滲む。


激しく脈打つ鼓動を数えるように深呼吸しながら、額に滲む汗を拭った。


『同国、首都プノンペンでも今年4月に観光で訪れていた韓国人男性が、銃で撃たれ大怪我をする事件が起きるなど、このところ銃を使った犯罪が相次いでおり』

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