恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
かといって下手に動いたら涙が止まらなくなりそうで、必要以外動かなかった。


涙を流すわけでもなく、何をするわけでもない。


ただでさえ狭いワンルームの片隅で膝を抱き締めて、ぼんやり過ごしていた。


潤一の死から1週間。


律子おばさんが訪ねて来るまで。


「……は?」


開口一番。


律子おばさんの口から飛び出したのは、励ましでも慰めでもなければいたわりの言葉でもなかった。


「北海道に行ってもらいます」


それは、あたしに選択の余地さえ与てはくれないものだった。


「年明けには向こうに行ってもらいます。小春には福岡に行ってもらうから」


陽妃は北海道、小春は福岡。


もう決定事項だから、と律子おばさんは言った。


「なんで……今なの。なんで、今、言わなきゃなんないの」


あたしは涙ぐみながら言い返した。


「こんな時に……なんでそんなこと言えるの。信じられない」


「こんな時だから言ってるの」


「律子おばさんは鬼だよ」


憔悴し切ったあたしの精一杯の抵抗は、律子おばさんにバッサリ切り捨てられた。


「甘えるんじゃない」


厳しい口調だった。


「乗り越えなさい」


「簡単に言わないで。律子おばさんにあたしの気持ちなんか……」


分からない、そう言ってあたしは膝を抱き締めた。

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