恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「他人事だからそんなふうに言えるんだよ」


誰も何も分かってくれない。


仕事、仕事って。


律子おばさんは悪魔だ。


人の気持ちを分からない鬼だ。


「悪いけど。私は堀北くんや小春みたいに励ましたり慰めたりしないし、甘やかす気はないの」


でも、分かっていないのはあたしの方だったのかもしれない。


「私は容赦ないからね、陽妃」


あたしの気持ちをいちばん理解しようとしてくれていたのは、律子おばさんだったのかもしれない。


ただ甘やかしても、あたしがダメになることを分かっていたのだと思う。


「年明けには向こうに行ってもらうから。いいわね」


「行かない」


「まず、店長として最初の仕事をしてもらいます。スタッフの募集をかけて面接してちょうだい。陽妃がスタッフを決めなさい」


「だから行かないって。あたしには無理」


「これはオーナー命令です。行きなさい」


黙り込みを決めたあたしに、律子おばさんはたたみかけるように言った。

「今は辛くて苦しくても、陽妃は生きて行かなきゃならない人間なんだから」


長い人生のまだ半分も生きてないくせに。


ここで躓いてへこたれてどうするの。


這いつくばって死ぬ気で仕事してみなさい。


大丈夫。


本当に死んだりしないから。

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