恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
帰ってもいいかなあ。


帰ろうかな。


『ただし、オバァ、中途半端や許さねーらんどー。頑張ってぇ頑張ってぇ、それからどうしてもどうにもならんかったら、そん時に帰ぇーって来よーさい。くぬ島や陽妃の帰ぇーって来る場所だからさぁ』


やだな。


おばあには全てお見通しなんだから。


『何かぁ。めそめそさんけー(するな)。オバァのアバサー汁食べたらさ、しぐに元気になるんだしさぁー』


おばあには適わないなあ。


『なんくるないよー陽妃ぃー。いいね、陽妃ぃ。ヤーはひとりじゃないさぁー』


帰ろう。


島に。


『カフーアラシミソーリ』


『……メッセージの再生が終わりました』


開け放たれた窓から都会独特の騒がしさと共に晩夏の風が入って来て、テーブルの上の雑誌をハラハラめくった。


視界の片隅にそのページがとまる。


【君の見ている風景】


大好きなあの場所へ。


優しいあの島へ。


帰ろう。


あたしは頭の線がプツリと途切れたように、床に這い蹲るように泣き崩れた。


泣き続けた。


ずっと。


律子おばさんが帰って来て、ご飯を作ってくれている間もずっと。


ネジが外れたように泣き続けた。


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