恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
陽射しがやわらかな黄色を帯びて、雪解けが進み、4月。


歩道の片隅に雪が残っているものの地面が現れ、大通り公園や歩道沿いの花壇にはクロッカスが咲き始めた。


Torteはその年の春、札幌ドームを近くに望める一角にオープンした。


客の入りは上々。


スタッフにも恵まれ、まずまずのスタートを切ることができた。


不思議な出逢いがあったのは、Torteがオープンし1ヶ月が過ぎ、若葉薫る5月。


ゴールデンウイークに開花した円山公園の桜が散り始めた頃で。


札幌ライラックまつりと共に大通り公園が甘い花の香りに包まれた、絹糸のような小雨が降る夜だった。


あたしの住むアパートは店から徒歩10分ほどの閑静な住宅街の一角にあって、日当たりのいい場所。


越して来た時から妙に気になっていた。


不思議な雰囲気のお店だな、なんて。


どうして賑やかな繁華街ではなく、こんな静かな住宅街でぽつんと営まれているのか不思議に思っていた。


“ひっそり”というよりは“こっそり”。


誰にも気づかれないように。


わざと人目を避けているかのように。


そんな雰囲気を醸し出しながら、そのバーは毎晩営業していた。


【SOUL NOTE】

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