恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「あの……あたし、何をどこまで話しましたか?」


宏子さんは質問には答えてくれなかった。


ただ、とにかくやわらかな微笑みを浮かべるだけで、右から順にカードをめくり始めた。


【THE WHEEL OF FORTUNE 】


「運命の輪、正位置。新たな局面、運命の変化。今は転換期で、陽妃ちゃんは大きな節目にいます」


【THE WORLD 】


「世界、正位置。達成や成就。今すぐでないかもしれないけど、仕事で目標を達成できるかも」


【THE LOVERS】


「恋人、正位置。選択の時。いずれ、選ぶべき時が来ます。協力者が現れるって出てる」


【THE DEATH】


「死神、逆位置。再生の次期。または、生まれ変わる」


そして、5枚目のカードに触れ、宏子さんはふうーと息を長めに吐いた。


「最後のカードね」


「あ……待ってください」


あたしは反射的に宏子さんの右手を握った。


「最後のカードは止めておきます」


宏子さんが不思議そうに首を傾げる。


「なして?」


「だって」


なんだか怖くなってしまった。


「おかしいもん。4枚ともあまりにも良い結果で、なんだか気味が悪くて」


あたしは苦笑いした。


占いの結果をうのみにするつもりはないけど。


この29年ありきが故、ちょっと怖じ気づいてしまったのは確かだった。


「あたしの人生けっこう酷かったし。胸を張れるような29年じゃなかったから」


それなのに、ここに来て急に運命の変化とか、達成だとか、成就だとか。


ポジティブなことばかり言われると、逆に怖い。


4枚は良い結果でも、最後の最後に奈落の底に突き落とされる結果が待っているに決まってる。


まるで、あたしの人生みたいに。
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