恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「本当にいいの?」


宏子さんに聞かれて、あたしはしっかり頷いた。


すると、宏子さんは「分かった」と5枚目のカードから静かに手を離した。


テーブルの上のキャンドルが風もないのに縦に横にふわふわ伸び縮みしながら揺れていた。


午前3時。


「帰ります。お会計お願いします」


と腰を上げようとした時だった。


ベヒッ、その音にあたしと宏子さんは同時に吹き出して大笑いしてしまった。


ソファで爆睡している親方がおならをしたのだ。


「やだあ、親方」


ケラケラ笑っていると、宏子さんが静かな口調で話し始めた。


「昇さん。ああやってねっぺこくし、もう40超えてるし。酒が詳しいただのオッサンだけど。私にとっては王子様なんだよ」


「王子様、ですか」


「んだ。40過ぎた女がなに寝ぼけたこと言ってんだべって笑われるかもしれないけど」


私の王子様だ、と宏子さんはいとおしそうな目で寝ている親方を見つめている。


年上の女性を可愛らしいと思ったのは初めてだった。


「いいなあ、そういうの。羨ましいです。幾つになっても、相手のことをそんな風に想えるのは素敵だなって思います」


「うちら、今は仲良くやってっけど、ここまで来るのになまら苦労したんだ。山あり谷あり」


「えっ、そうなんですか?」


どう見ても仲良しの夫婦にしか見えないだけに、ちょっと驚いた。


「んだよー。ケンカして遠回りして、何度も別れ繰り返してさ。んだけど、やっぱりなんとしても好きでさ」


宏子さんは、親方に出逢う前の自分を好きになれずにもがき苦しんだことを打ち明けてくれた。
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