恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
前に堀北さんから見せてもらった時、潤一が雑誌でグランプリを取った時も。


こんなものは写っていたっけ?


波音が聴こえてきそうな、懐かしい風景の左片隅に、それはぽつんと小さく写り込んでいた。


「……人」


ふたり、いる。


ごくっ、と唾を飲んだ時、肩を叩かれてはっとした。


「須藤も、気付いた?」


振り向くと、堀北さんだった。


「あの、堀北さん、これ」


「うん。そうなんだよ。僕も見付けた時ちょっと驚いた」


そう言って、堀北さんが写り込んでいるシルエットを指差す。


「ここね。波打ち際。拡大して現像した時、あれ? って。人物が写り込んでいたのかって」


島の住民かな、と堀北さんが微笑む。


「案外、須藤の知り合いだったりしてね。でも、シルエットだし分からないか、さすがに。観光客かもしれないし」


逆光のせいでシルエットになっている。


「先輩の写真に人物が写ってるの、この2枚だけだったんだ」


「そうですか」


まさかとは思う。


でも、あたしには分かった。


見れば見るほど、疑念は確信になった。


ひとつは、腰の曲がった老人。


隣に立っているのは、きっと。


ううん。


間違いないと思う。


「堀北さん。知ってます、あたし。たぶん」


「え?」


「この、ふたり」


おそらく、間違いないと思う。


おばあと、もうひとりは……。


「あたし、知ってます」


「そっか」


堀北さんが何かを悟ったように微笑んで、写真パネルに視線を戻す。


「じゃあ、やっぱり、先輩が付けたタイトル通りだ」


「え?」


「これは」


と堀北さんはその風景を指差しなから言った。

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