恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「須藤の見ている風景なんだろうね」


堀北さんはもう一度あたしの肩を叩いて「これから主催者あいさつなんだ」と離れて行った。


須藤の見ている風景なんだろうね。


堀北さんのひと言が胸に響いた。


これは、偶然写り込んだものなのか、それとも……。


都合の良い捉え方だと呆れられてしまうかもしれない。


でも、どうしても偶然だとは思えなかった。


どうしても、榎本潤一からの何らかのメッセージだとしか思えなかった。


【君の見ている風景】


堀北さんが言った通り、それは紛れもなく、あたしの見ている風景だった。


10年前、あたしが毎日見ていた風景には、必ずあのふたりがいた。


おばあがいて、彼がいた。


「潤一……やっぱり、全部分かってたんだ」


あたしが何を見て、何に焦がれ、何を忘れられずにもがいていたのか。


潤一はちゃんと分かっていたんだ。


潤一の腕に抱かれながら、あたしが見ていた風景を。


さすが、フォトグラファーだね。


「潤一」


その写真を眺めていた時だった。


背後でふわっ……と風が吹いた気がしてぱっと振り向いた。


でも、風が吹くはずがない。


窓は閉めきられ、会場内は冷房が効いている。


来場者で混雑しているだけだ。


気のせいか……。


正午になり、会場では会食が始まった。


シャンパンやワイン、ソフトドリンク。


こじゃれたサンドウィッチのオードブルに、可愛く盛り付けられた瑞々しいフルーツとケーキ。


オレンジジュースを飲んでいると、突然、会場内に声が響いた。
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