恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
彼はその2枚の写真パネルをしばらく眺めたあと、かすかな微笑みを浮かべ、そして、出口に向かってすたすた歩いて行く。


似ている。


ううん。


「待っ……」


海斗。


「……待って!」


あたしは慌てて来場者を掻き分けた。


「すみません! 通してください」


でも、予想を遥かに超える来場者を掻き分けているうちに、その人物はアトリエを出て行ってしまい、あっという間にあたしの視界から消えてしまった。


「通してください! ごめんなさい!」


掻き分けて、掻き分けて、ようやく外へ飛び出し、通りを見渡した。


右を見ても左を見ても、それらしき人物はどこにも見当たらない。


通りには夏の陽射しが燦々と降り注いでいるだけだった。


タクシーが1台、ゆっくりと目の前を通過して行った。


夏の暑い風が南西の方向からゆるゆると吹く。


きつい陽射しに目を細めた。


眩しい。


くらくらした。


あたしは、幻を見たのだろうか。


もしくは、白昼夢。


そうかもしれない。


彼がここに居るわけがないのに。
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