恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】







アトリエの裏の小さな中庭は、テラスになっていた。


「札幌のお店、どうですか? 順調ですか?」


「まあまあかな。休日は客入りも上々だけど、平日がまだ不安定でね。でも、なんとかやってる。小春は?」


「私も。東京とはまたちょっと違うんですよねえ。難しいです」


中庭のベンチに座ってサンドウィッチをつまみながら、小春と近況を報告し合っていると、


「ああ、いたいた。ここにいたのか」


探したよ、と堀北さんがやって来た。


「あ、堀北さん、お久し振りです」


小春が微笑む。


「久し振り、小春ちゃん。福岡はどう? もうなれた?」


「なんとかやってます。すみません、挨拶まだでした。思ったより道が混んでて」


「ああ、いいんだ。来てくれただけで嬉しいよ。それより、これ。まだ記帳してもらってないよね?」


堀北さんがノートとサインペンを小春に差し出す。


「差し支えなければ、ご芳名お願いします」


「はい、分かりました」


名前と住所を書き終えた小春が、


「すごいですねー。何人くらい来場されてるんですか?」


とノートをパラパラめくりながら、堀北さんにサインペンと一緒に差し出す。


「そうだなあ。まだ正確な人数は……でも、おそらく50人くらいは」


ありがとう、と堀北さんが小春からノートを受け取った、次の瞬間だった。


突風のような風がぶわっ、と舞い上がるように中庭を吹き抜けた。


堀北さんの手から離れて、芝生の上に落ちたノート。


パラララ……と2、3ページがめくれ、風がやんだと同時にぴたりと止まる。


えっ。


「あ、やべ」


堀北さんが慌ててノートを拾おうと伸ばした右手を、あたしはとっさに捕まえた。


「待って!」


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