恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「陽妃さん?」
「え?」
「泣いてるんですか?」
どうしたの、と小春があたしの背中をさする。
なんでもない、とは言えなかった。
どうしたも、こうしたも。
「どう、なってるんだろうね」
あたしはにわかに微笑みながら、どうしでめ涙をこらえることができなかった。
皮肉にもほどがある。
だって、まさか。
「小春、堀北さん」
よりによって、亡くした恋人の追悼個展に来て、思い知らされることになるなんて。
思ってもみなかった。
封じ込めていたはずの想いが、涙になって溢れて止まらなくなってしまった。
「あたし、本当に好きだったの……本当に。潤一のこと」
それは神に誓って嘘じゃない。
帰って来たら返事をして、結婚しようと思っていた。
彼とならきっと幸せになれるって。
潤一と幸せになろうって。
「本当だよ、嘘じゃない」
思っていた。
「でもね、だけどっ……」
あたしは泣きながら何度も何度も、その筆跡を指で目でなぞった。
ーー陽妃ぃ! はーるぅーひぃー!
ーーけーたんなー! 陽妃!
懐かしい、大好きなあの声が。
あたしの名前を呼ぶあの声が、耳の奥に鮮やかによみがえった。
「あたしには、好きな人がいるんです……もう、ずっと。ずっと……10年以上……前から……ずっと」
ーーおれがいつもそばにおる
ゆるゆると吹いていた風が静かにおさまって、夏の陽射しが背中に降り注いだ。
「え?」
「泣いてるんですか?」
どうしたの、と小春があたしの背中をさする。
なんでもない、とは言えなかった。
どうしたも、こうしたも。
「どう、なってるんだろうね」
あたしはにわかに微笑みながら、どうしでめ涙をこらえることができなかった。
皮肉にもほどがある。
だって、まさか。
「小春、堀北さん」
よりによって、亡くした恋人の追悼個展に来て、思い知らされることになるなんて。
思ってもみなかった。
封じ込めていたはずの想いが、涙になって溢れて止まらなくなってしまった。
「あたし、本当に好きだったの……本当に。潤一のこと」
それは神に誓って嘘じゃない。
帰って来たら返事をして、結婚しようと思っていた。
彼とならきっと幸せになれるって。
潤一と幸せになろうって。
「本当だよ、嘘じゃない」
思っていた。
「でもね、だけどっ……」
あたしは泣きながら何度も何度も、その筆跡を指で目でなぞった。
ーー陽妃ぃ! はーるぅーひぃー!
ーーけーたんなー! 陽妃!
懐かしい、大好きなあの声が。
あたしの名前を呼ぶあの声が、耳の奥に鮮やかによみがえった。
「あたしには、好きな人がいるんです……もう、ずっと。ずっと……10年以上……前から……ずっと」
ーーおれがいつもそばにおる
ゆるゆると吹いていた風が静かにおさまって、夏の陽射しが背中に降り注いだ。