恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
それに、日曜日限定のカフェSOUL NOTE に足を運ぶのは、近所の常連客がほとんどだ。
今のところ、あたし以外にお客さんはいない。
「あれっ? 親方がいない」
がらんとした店内をキョロキョロしながらカウンター席に座ると、宏子さんがコーヒーカップを準備しながら言った。
「いま買い出しに行ってもらってんだ。パスタと卵残り少なくて。車で行ったんだけど、まだ帰って来ないべ」
「車で? 大丈夫かな。渋滞に巻き込まれてるんじゃない?」
「んだかもね。かれこれ1時間。待てど暮らせど帰って来ません」
「ほらー。やっぱり巻き込まれたんだよ」
こぽこぽ、コーヒーをカップに注ぎ入れながら、宏子さんが聞いてきた。
「して、そっちは? まだ着かないの?」
「え?」
「ほら、5時間もかけて遠路はるばるやって来る子たち」
道さ迷ってるんでないの、そう言いながら宏子さんがコーヒーを出してくれた。
「今はスマホで何でも調べられる時代だし。心配ないと思いますけど。新千歳からここまでは高速バス使うって言ってたし」
「にしても遅くね? 飛行機、12時着なんだべ?」
「はい」
「新千歳空港から高速バスでだいたい1時間もあれば着くっしょ。もう1時間以上経ってるけど」
「高速降りてからの道が混んでるのかも」
あたしは笑いながらコーヒーをひと口すすった。
宏子さんが淹れるコーヒーは妙に美味しい。
ほろ苦くて、香ばしくて、酸味が絶妙で、後味がすっきりしていて。
「んだな。まあ、あの渋滞見たら納得だ。今頃、バスの中でやきもきしてるべ」
「でしょうね」
その様子が目に浮かぶ。
あたしはコーヒーを堪能しながら、クスクス笑った。
その時、店のドアが開いて、常連客のおじいさんが困惑した様子で入って来た。
トレードマークのワインレッド色のベレー帽に、4点杖。
近所に住んでいる、右足が不自由な田中繁太郎(たなか しげたろう)さん。
通称、シゲさん。
「いやいやいや、なんだべなんだべ。なんとなってんだべ」
平日はめったに出歩かないらしい。
今のところ、あたし以外にお客さんはいない。
「あれっ? 親方がいない」
がらんとした店内をキョロキョロしながらカウンター席に座ると、宏子さんがコーヒーカップを準備しながら言った。
「いま買い出しに行ってもらってんだ。パスタと卵残り少なくて。車で行ったんだけど、まだ帰って来ないべ」
「車で? 大丈夫かな。渋滞に巻き込まれてるんじゃない?」
「んだかもね。かれこれ1時間。待てど暮らせど帰って来ません」
「ほらー。やっぱり巻き込まれたんだよ」
こぽこぽ、コーヒーをカップに注ぎ入れながら、宏子さんが聞いてきた。
「して、そっちは? まだ着かないの?」
「え?」
「ほら、5時間もかけて遠路はるばるやって来る子たち」
道さ迷ってるんでないの、そう言いながら宏子さんがコーヒーを出してくれた。
「今はスマホで何でも調べられる時代だし。心配ないと思いますけど。新千歳からここまでは高速バス使うって言ってたし」
「にしても遅くね? 飛行機、12時着なんだべ?」
「はい」
「新千歳空港から高速バスでだいたい1時間もあれば着くっしょ。もう1時間以上経ってるけど」
「高速降りてからの道が混んでるのかも」
あたしは笑いながらコーヒーをひと口すすった。
宏子さんが淹れるコーヒーは妙に美味しい。
ほろ苦くて、香ばしくて、酸味が絶妙で、後味がすっきりしていて。
「んだな。まあ、あの渋滞見たら納得だ。今頃、バスの中でやきもきしてるべ」
「でしょうね」
その様子が目に浮かぶ。
あたしはコーヒーを堪能しながら、クスクス笑った。
その時、店のドアが開いて、常連客のおじいさんが困惑した様子で入って来た。
トレードマークのワインレッド色のベレー帽に、4点杖。
近所に住んでいる、右足が不自由な田中繁太郎(たなか しげたろう)さん。
通称、シゲさん。
「いやいやいや、なんだべなんだべ。なんとなってんだべ」
平日はめったに出歩かないらしい。