恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「「ああ」」


あたしと宏子さんは顔を見合せて、同時にぷと吹き出した。


「なしてだ? 今日はどこも人だらけだ」


野球の試合だべが、と不思議そうに首を傾げながら、ブレンドコーヒーとツナマヨトーストとクラムチャウダーとサラダのランチセットを注文したシゲさんに、宏子さんが笑いながら答える。


「今日だけでないよ。一昨日からこった感じだよ、この周辺」


「ほう。んだのか。日曜日しか出歩かねえから知らねがった。たまげてしまった」


「ほら、一昨日からドームでコンサートしてるっしょ」


「コンサート?」


「んだ。金土日の3日間な」


今日が最終日なんだと、と説明しながら宏子さんは手際良く1斤のパンを厚さ3センチほどに切り分け、トーストし始めた。


シゲさんは文庫本をパラパラめくりながら「ほーう」と上の空の返事をする。


「誰のコンサートだべ。ははあ……分がった。北海道っつったらアレだべ。サブちゃん」


「んでないって!」


宏子さんはコーヒーカップにブレンドを注ぎながら、ハハハと笑った。


「シゲさん、知らないの?」


「あー?」


「今、札幌さアイドル来てるんだで」


「アイドル? 外人か?」


「んでなくてよ。日本人だ」


「ほうほう。アイドルっつう名前の日本人がいんのか。ハイカラだなあ」


「……だめだこりゃ」


と宏子さんがあたしに苦笑いした。


あたしはクスクス笑い返して、並べて置いていた2枚のチケットに視線を落とした。


どうやらこれは、幸せの引き換え券らしい。


人生はいつ何が起きるか分からない。


そんな内容の手紙があたしの元へ届いたのは、2週間前。


清らかな秋晴れの日だった。


黄色の封筒。


【須藤 陽妃 様】


封筒の右下の端っこにこう書かれてあった。


【カフー在中】


仕事から帰ったあたしは、ファンヒーターを付けることも忘れて、寒い部屋で手紙の封を切った。

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