恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
パンが焼けるこうばしい匂い。


「あ、らすぅー?」


シゲさんの頓狂な声ではっと我に返る。


あたしはチケットの文字を目でなぞった。


【Live Tour 20**】


カフーの引換券、か。


「んでなくて! あらす、じゃなくて、アラシ!」


と宏子さんがカウンターを出て、シゲさんの元へランチセットを運んで行く。


「シゲさん、本当に知らないの? アラシ」


「さあ、知らねえなあ」


「えー! ウソだべ? ほら、5人組の!」


「……分がんねえなあ」


「ウッソだべ! マツジュンは?」


「さあ……」


「したら、ショウくんは?」


「誰だ?」


首を傾げ続けるシゲさんに、宏子さんが食い下がる。


「ニノは? アイバちゃんは? オオちゃんは?」


「外人だが?」


「ウッソだべーっ?」


「したって分からねえもの」


「40過ぎの私でも分かるよ! 有名人だべ!」


「一緒さするな。おれは80過ぎのじーさんだ」


40歳差のふたりの会話を聞きながらこっそり笑って、コーヒーをすすった時だった。


「こんにちはー」


店のドアが開いて、外の冷気がひゅうっと入ってきた。


「……ソウルノートってここですか?」

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