恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「好きになりよったげな、そーゆうんじゃなかから」


「えっ」


もしかして、美波ちゃんからいろいろ聞いているんだろうか。


あたしの海斗へ対する想いを、ケイちゃんも知っているのかもしれない。


「うちの王子様はひとりだけん」


ケイちゃんはスマホの画面をあたしに見せて、全力ではにかむ。


たまらず笑ってしまった。


「それ、ショウくん? 本当に好きなんだねえ」


「うん! 大好き! 本当に王子様! やばかやばか!」


その熱弁ぶりにたまらず吹き出すと、ケイちゃんもつられたようにプハーと吹き出した。


「あの、陽妃さん。うち、今からへんなこつ言うばってん。深く考えないでくれんね」


「へんなこと?」


「うん。今はまだ聞き流してくれんね」


今はまだ、ってどういうことだろう。


「陽妃さん」


ひとつ咳払いをして、ケイちゃんは改まったように言った。


「ひょっとしたばいら、これからお世話になるかもしれんから。そん時はよろしくお願いしますけんね」


そして、右手をすっと差し出してきた。


真っ赤なマニキュアが施された、小さくて可愛い手。


「え……と、うん。こちらこそ」


よろしくね、とあたしは意味も分からないまま、本当に深く考えたりもせずにその手を握り返した。













「北海道やでーじでーじ寒いって言うからさ、覚悟して来たのにさ。そうでもないね」


雪、降っとらんし、と美波ちゃんがトイレから戻って来て、窓の外を見ながら残念そうに言った。


「雪、積もっとると思って楽しみにして来たんやしが」


ああ、とカウンターの中から宏子さんが言った。


「今年はあったかいからね。来月にならないと本格的には降らないし、積もらないっしょ」


「そうなんですかあ」


と美波ちゃんがますます残念そうに肩をすくめる。

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