恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

スノウホワイト

24歳の冬に出逢った彼は、口から生まれて来たようなデマカセが得意な人だった。


――この写真。どこで撮ったの?


――ああ、それ北海道。北海道のどこだったっけな。でも、確かに北海道


――この写真の花、何ていう花?


――ラベンダー


天真爛漫で自由奔放な彼は、嘘をつく天才だった。


どれが冗談で、どれが本気なのか分からなかった。


いつも戸惑った。


飄々としていて、つかみどころがなくて、扱いに困った。


――ラベンダー? これが?


――そ。ラベンダー


――嘘つき。またテキトーなこと言って


――嘘じゃないって。本当にラベンダー


――でもこの花、紫色じゃないよ


――白いラベンダーもあるんだよ


――……


――あっ、何、その疑り深い眼差し


――だって、見たことないし。白いラベンダーなんて


白いラベンダーの花言葉を教えてくれた彼は、あたしを雪みたいな女性だと言って、悲しそうに笑った。


大切に持ってると融けちゃうだろ、雪って。そう言って。


――白いラベンダーの花言葉は“あなたを待っています”


彼は突然、あたしの日常に現れた。


高そうな古い型の一眼レフのフィルムカメラを首にぶら下げて。


< 2 / 223 >

この作品をシェア

pagetop