恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
――ムシャクシャした時はとりあえずこれを飲む。それでクラクラに酔っ払って帰って寝る。これに限る


いつだったか。


まだアルコール初心者だったあたしを連れて行ってくれたバーで、律子おばさんが注文していたのを思い出したのだ。


――嫌なことがあった日は決まってこれ。ウォッカマティーニ


「お待たせ致しました。ウォッカマティーニです」


「ありがとう」


差し出されたカクテルをちびりと啜っただけでも、カアッと焼けるように喉が熱くなった。


「で。何の話でしたっけ」


早々とほろ酔いになったあたしを、ふたりはゲラゲラ笑った。


笑われているというのに、妙に気分がいい。


残りのウォッカマティーニを飲み干し、あたしはカウンターに頬杖をついてへらへらと笑った。


「おかわりくださーい」


結局、またさらに2杯おかわりしてしまった。


「こんなふうに荒れてる陽妃さん見たの初めてかも」


「完璧な酔っ払いだな。よし、飲め飲め。今夜はおごってやるから」


「やったー。堀北さん太っ腹」


駆け付け2杯のビールに、ウォッカマティーニを3杯。


気分が良くなったあたしはさっきの出来事をすっかり忘れて、


「でねっ……聞いてったら。すーっごく綺麗だったの! すうーっごく!」


ユキナ・ヒイラギの新作ドレスについて熱く語っていた。

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