恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「余計なものは一切付いていなくて。限りなくシンプルなの。まさにスノウホワイト。純白」


「もー……これで4回目ですよ。何度同じ話するんですか」


聞き飽きたとでも言いたげに小春が苦笑いした。


「それはそうと、もう8時ですけど、堀北さんの先輩遅いですね」


「ああ、服着替えたらすぐ向かうって言ってたんだけど」


会話を弾ませるふたりの横で、あたしはひたすらにウォッカマティーニを飲み続ける。


目の奥がふわふわ回る。


結構酔っ払ってしまったかもしれない。


「まあ、時間にとらわれない人だから」


と堀北さんは言う。


「忘れた頃にふらっと現れるよ」


何だそりゃ、と心の中で突っ込みながらグラスに口を付ける。


「ふらっと?」


小春が聞くと、堀北さんはウイスキーのロックをグビッと飲みながら楽しそうに笑った。


「そう。ふらっと。生き方がフランクっていうかね。彼にとって遅刻は至極当然の行為だから」


何だそれ。


遅刻が当然だなんて、どんな人間なの。


あたしはウォッカマティーニを飲みながら、少し驚いていた。


紳士でしっかり者の堀北さんにも、そういう知り合いがいたことに。

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