恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
――サヨナラ、海斗


あれから、6年。


奇跡を待ち続けて、片手では足りない数の歳を重ねてしまった。


東京へ出て来てから、一度も島へは帰っていない。


成人式にさえ出席しなかった。


ただ待ち続けて、ひたすらに待ちわびている。


起きない奇跡を、ずっと、この街で。


記憶を取り戻した彼が迎えに来てくれるんじゃないか。


毎日そんなことを信じて待っていたら、24歳になっていた。


「……ばかみたい」


あと何年。


あたしは待ち続けるつもりなんだろう。


あたしも全部忘れることができたら、どんなに楽になれるのかな。


携帯で時間を確かめると、20時半を過ぎていた。


明日は久し振りに休みだ。


どうせならもっと飲んでやろう。


飲んで飲んで飲みまくれば、あたしの記憶もどこかに飛んで行ってくれるのかな。


どこかに飛んでってくれないかな。


あたしの記憶。


そしたらもう、待ち続けなくて済むのに……。











ところが。


「あー来た来た。大丈夫か、須藤」


トイレから戻ったあたしを待っていたのは、思い掛けない再会だった。

< 26 / 223 >

この作品をシェア

pagetop