恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「大丈夫ですよー」


ふらりとよろけたあたしに、堀北さんは清潔感たっぷりに微笑む。


「紹介するよ」


人生はいつどう転がるか分かったもんじゃない。


石橋を叩いて慎重に渡っていても、落ちる時は落ちる。


細心の注意を払っていても、落ちる。


「大学時代からの先輩」


神様が手のひらの上で転がしてるんだ、きっと。

面白可笑しく手のひらの上で人間の人生を転がして、試している。


あたしがどんな選択をするのか。


「先輩、彼女が須藤陽妃です」


「え? ああ……」


黒いダウンジャケットに、タイトなパンツ。


きれいめカジュアルの服装だったから、一瞬、別人かと思った。


確実によろけるくらい酔っ払ってるけど、あたしの判断力は正確だった。


ひょろりと高い背に、焦げ茶色の無造作な髪型。


「あ」


と口を開けて突っ立っているあたしを見て、彼は一瞬目を丸くした直後、しれっとした様子で微笑んだ。


「どうも。初めまして」


いつだったか。


おばあが言った言葉がふいっと頭をよぎる。


――誰も運命にや逆らえねーらん


彼はたった数時間前と同じ目つきをして、首に一眼レフカメラを下げていた。

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