恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
互いの腹の中をさぐり合うように、あたしたちは握手を交わした。
偶然と運命が動き出すのを、確かに感じながら。
榎本潤一。
29歳。
世界中を転々と渡り歩き、世界遺産を中心に幻想的な風景や建造物をフィルムにおさめる、自称無名のフリーフォトグラファー。
「先輩の写真を初めて見たのは大学の文化祭だったんだけど。この世にはこんなに美しい世界が存在するのかって。正直、衝撃を受けたよ」
堀北さんは当時を思い出したのか、興奮気味に言った。
「先輩は本当にノラネコみたいな人でさ。バイト掛け持ちして金が貯まるとすぐぷらーっとどこかに行くんだ。帰って来てはまた金貯めて。気付くとまたいないんだよ」
「ノラネコってお前、失礼な後輩だなあ」
榎本さんはあっけらかんと笑って、ぷかーと煙草を吹かした。
煙いなあ、と顔をしかめるあたしの隣ではほろ酔いの小春が毒を吐く。
「そんなんでよく卒業できましたね、榎本さん」
「はっはっはー」
「でもちゃんとストレートで卒業したんだよなあ、先輩。よく単位とれましたね」
どうやってたんですか、と堀北さんに聞かれると、榎本さんはえへらと笑ってカクテルを飲み煙草を灰皿に押し付けた。
「えー、堀北くん。何のために“代返”という便利なものがあると思いますか?」
偶然と運命が動き出すのを、確かに感じながら。
榎本潤一。
29歳。
世界中を転々と渡り歩き、世界遺産を中心に幻想的な風景や建造物をフィルムにおさめる、自称無名のフリーフォトグラファー。
「先輩の写真を初めて見たのは大学の文化祭だったんだけど。この世にはこんなに美しい世界が存在するのかって。正直、衝撃を受けたよ」
堀北さんは当時を思い出したのか、興奮気味に言った。
「先輩は本当にノラネコみたいな人でさ。バイト掛け持ちして金が貯まるとすぐぷらーっとどこかに行くんだ。帰って来てはまた金貯めて。気付くとまたいないんだよ」
「ノラネコってお前、失礼な後輩だなあ」
榎本さんはあっけらかんと笑って、ぷかーと煙草を吹かした。
煙いなあ、と顔をしかめるあたしの隣ではほろ酔いの小春が毒を吐く。
「そんなんでよく卒業できましたね、榎本さん」
「はっはっはー」
「でもちゃんとストレートで卒業したんだよなあ、先輩。よく単位とれましたね」
どうやってたんですか、と堀北さんに聞かれると、榎本さんはえへらと笑ってカクテルを飲み煙草を灰皿に押し付けた。
「えー、堀北くん。何のために“代返”という便利なものがあると思いますか?」