恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
いつもテキトーなことを言って調子が良くて。


でも、本当は誰よりも誠実な男の人だった。


――ちょっと行って来るから


――また? 先週帰って来たばかりなのに?


――すぐ帰って来るよ


――すぐって? 1年後?


彼はいつもあたしを振り回して困惑させる、とんでもない人だった。


――トルコ、イスタンブール。その前はフランス。今度はどこ?


――イタリアのアマルフィ、か、エジプト、ギザ3大ピラミッドとスフィンク……


――もういい


ふらっとどこかへ行っては、忘れそうな頃にひょっこり戻って来る。


そしてまま忽然と姿を消した。


もしかしたらもう帰って来ないのかもと思うと、絶妙なタイミングで帰って来て。


もしかしたら今度は本当にずっと一緒に居られるかもしれないと思っていると、あたしの気持ちを試すようにふいっとどこかへ行ってしまった。


四六時中、夢を追い掛けている人だった。


――カンボジア?


――そ。アンコールワット


あたしより5つも年上のくせに、いつまで経っても少年のような大人だった。


純粋無垢な瞳の、気まぐれなネコのような生き方をする人だった。

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