恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「今回はどこに行って来たんですか?」


小春の質問に榎本さんは淡々と答える。


「エクアドルとかニュージーランドとか。2年かけてあちこち転々とね」


「その資金、どうしたんですか?」


「割のいいバイト掛け持ちしてコツコツ。でもまた探さないとなあ」


榎本さんは大学卒業後、わざと定職に就かず資金を貯めては世界を渡り歩き、帰って来てはまた、その繰り返しで現在に至っていた。


一度日本を離れると、短くても最低3ヶ月は帰らないらしい。


「じゃあ榎本さんて日本にいる時間短いんですね。こっちにいる時はどんな生活してるんですか?」


さっきまで自由奔放な生き方の彼を大ブーイングしていた小春も、次第に興味を抱き始めたらしい。


「国内の風景には興味無いんですか?」


榎本さんにポンポン質問を投げ始めた。


「全く興味がないわけじゃないよ。でもやっぱり一度世界を見ちゃうと病み付きになるっていうかね。そんな感じ」


「ひとり暮らしですか?」


「うん」


「でも日本にいる時間が短いんじゃお家賃とか勿体無くないですか?」


「そこは大丈夫。僕の祖父は全く売れない画家だったんだ。祖父が生前使っていたアトリエを改装して、こっちにいる間はそこで生活してるから」

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