恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「へえ。アトリエって響きちょっと素敵」


「どこが。すっごい狭いし。祖父が他界して何年も経ってるのに、まだ絵の具とか画材の匂いが染み付いててさ」


榎本さんはお酒に強い人だった。


「ゴードン。ゴードンにライムを1滴絞ってください」


アルコール度数40もあるお酒を彼は何杯飲んだだろうか。


あたしもけっこう飲んでいたから定かではないけど、覚えているだけで5、6杯は飲んでいたと思う。

「ジンが好きなんだ」


そう言って、ひたすらゴードンを飲んでいた。


4人でバーを出た時はもう23時近かったと思う。


「堀北ぁー! もう1軒行くか!」


ネオンで明るい夜の街に、乱れた小春の声が響く。


「こらー! 聞いてんのか堀北ぁ!」


「はいはいはい、聞いてますよ」


「よーし、朝まで飲むぞー! 着いてこーい!」


「行かないって。ほら、乗って」


と、完全にへべれけの小春を堀北さんが拾ったタクシーに押し込む。


「やー、小春ちゃんがこんなに酒癖悪いなんて知らなかったよ」


小春は決して酒癖が悪いわけじゃない。


こうなってしまった原因はアレだと思う。

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