恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
いつもカシス系のカクテルしか飲まないのに、興味本位で榎本さんの真似をしてゴードンを飲んだりしたから。


「すみません、堀北さん」


あたしが肩をすくめると、


「須藤が謝ることじゃないだろ。今日は楽しかった。また飲もう」


堀北さんは微笑み、小春と同じタクシーに乗り込んだ。


「堀北さん、じゃあすみませんけど小春のことよろしくお願いします」


「大丈夫。心配しないで。ちゃんと自宅まで届けるから」


家が同じ方向のふたりはタクシーに相乗りして帰って行った。


タクシーが見えなくなった時、榎本さんが話し掛けてきた。


「で。どうする?」


「は?」


「せっかくだし。再会を祝してもう1軒行く?」


祝して、ね。


「行きません。帰ります」


あたしは堅い口調で頭を下げ、ふらふらと歩き出した。


12月の街は忘年会シーズンで通りを行き交うタクシーはどれも乗車中ランプを灯しながら走っている。


もう1本向こうの通りに出れば拾えるかもしれない。


でも、スタスタ歩いているつもりでも全然前に進めていない気がする。


今夜はさすがに酔っ払ってしまった。


「お堅いなあ。結構キツいカクテル飲んでたのにしっかりしてるね。その様子だとアレだ。何年も寝てないでしょ、男と」

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