恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
こんなふざけた男との相乗りには抵抗があったけど、タクシーを拾えずにこの寒空の下を千鳥足で帰るよりはマシだった。
「じゃあ、お願いします。あたし渋谷なんですけど」
よろけながら乗り込むと、
「ちょうど良かった。僕は青山なんだ」
榎本さんは運転手に「青山経由、渋谷」と告げた。
走り出したタクシー。
車内は暖房が効き過ぎていた。
急激な寒暖差で頬が火照る。
「あー。今夜は飲んだね」
榎本さんには今日初めて会ったとは到底思えないほどの人なつこさがあった。
遠慮とか気遣いだとか、そういうものが彼からは感じられなかった。
一緒にいて楽な人とはこういう人を言うのかもしれない。
「久し振りにゴードン飲んだけど、やっぱりうまいね」
榎本さんはここがまるで自宅であるかのように、カメラを首から外し、シートに置いた。
「置き忘れないでくださいね」
「えー?」
「カメラ」
榎本さんはイタズラっぽい目つきでふっと笑って、シートにもたれた。
「フォトグラファーだよ、これでも一応。カメラは僕の片腕なんだから」
「……そうですね」
無愛想に返し、あたしはコートのポケットに手を突っ込んでハッとした。
「じゃあ、お願いします。あたし渋谷なんですけど」
よろけながら乗り込むと、
「ちょうど良かった。僕は青山なんだ」
榎本さんは運転手に「青山経由、渋谷」と告げた。
走り出したタクシー。
車内は暖房が効き過ぎていた。
急激な寒暖差で頬が火照る。
「あー。今夜は飲んだね」
榎本さんには今日初めて会ったとは到底思えないほどの人なつこさがあった。
遠慮とか気遣いだとか、そういうものが彼からは感じられなかった。
一緒にいて楽な人とはこういう人を言うのかもしれない。
「久し振りにゴードン飲んだけど、やっぱりうまいね」
榎本さんはここがまるで自宅であるかのように、カメラを首から外し、シートに置いた。
「置き忘れないでくださいね」
「えー?」
「カメラ」
榎本さんはイタズラっぽい目つきでふっと笑って、シートにもたれた。
「フォトグラファーだよ、これでも一応。カメラは僕の片腕なんだから」
「……そうですね」
無愛想に返し、あたしはコートのポケットに手を突っ込んでハッとした。