恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
ずしっと重いカメラを両手に、あたしは小さく唾を飲んだ。


おそらく。


あたしは今、試されている。


――カメラは僕の片腕なんだから


確かに。


バーで飲んでいる時でさえ片時も肌身離さず首から下げていたくらいだ。


そんな人がうっかり忘れたりするだろうか。


わざとだ。


そう思う。


彼はあたしを試したんだ。


今、これから、あたしがどんな行動を取るのか。


そして、きっと彼は知っている。


これからあたしがどんな行動を起こすのかを。


それを予測したうえで、彼は自分の片腕をわざと置き忘れて行ったんだ。


これはおそらく駆け引きだ。


「戻りましょうか」


運転手に聞かれて、あたしは首を振った。


「いいえ」


「でも、本当にすぐそこですよ」


「いいんです」


あたしは自分の財布から5千円札を差し出した。


「降ります。精算してください」


「ここでいいんですか?」


「はい」


あたしはタクシーを降りて、カメラと1万円札を手に歩き出した。





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