恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
――今回で最後にする


――嘘。どうせまたふらっといなくなるんでしょ


――本当にアンコールワットで最後


――信じない


――本当だよ。歳も歳だし。いつまでもフラフラして、陽妃に逃げられたら困るし


その時、あたしは28歳で、彼は33歳だった。


――帰って来たら、返事を聞かせて欲しい


彼はノラネコのように自由気ままな人で、ひだまりのように笑う人だった。


彼は嘘をつくのが趣味で、だけど、誠実な人だった。










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姉ェネェ、元気ですか。
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美波は元気です。
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オバァも元気です。
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美波さ、今度の発表会でクラリ
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ネットを演奏するんだよ
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東京は寒いですか。
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東京での生活が始まってから1年が経った。


お気楽なアルバイトとは違う、正社員としての仕事。


疲れて帰ってからの掃除、洗濯。


なれない自炊。


目の前の事をこなして行くだけであっという間に月日は流れて行った。


まるで、特急列車のように。

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