恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「わざとだなって分かってます」
「へえ」
榎本さんは口元に微かな笑みを浮かべて、カメラと1万円札を受け取ると、
「どうぞ」
とドアを押し開いた。
覗くと中は真っ暗だった。
ただ、デジタル時計の数字が緑色に光っている以外、何も見えない。
「入った瞬間、襲うけど」
挑発的な目。
睨み返したあたしの腕を掴んで、榎本さんは中に引きずり込んだ。
抵抗はしなかった。
始めからそのつもりだった。
たぶん、あの瞬間から。
青山通りで出逢い頭に衝突した、あの瞬間から。
あたしはこうなることを予感していたのかもしれない。
ドアが閉まる。
「あの」
と同時にあたしの声は榎本さんの唇に塞がれた。
足元にはらりと空を切りながら1万円札が落ちる。
バッグを投げ出して首に腕を巻き付かせると、彼はそれに応えるようにカメラを側の台に置き、更に深いキスを返してきた。
室内は暗く、絵の具と不思議な薬品の匂いがした。
あたしのコートのボタンを器用に外しながら、榎本さんが囁く。
「ベッド、ソファ。どっちがいい?」
あたしは彼の上着を剥ぎ取りながら、首を横に振った。
「ここでいい」
「分かった」
「へえ」
榎本さんは口元に微かな笑みを浮かべて、カメラと1万円札を受け取ると、
「どうぞ」
とドアを押し開いた。
覗くと中は真っ暗だった。
ただ、デジタル時計の数字が緑色に光っている以外、何も見えない。
「入った瞬間、襲うけど」
挑発的な目。
睨み返したあたしの腕を掴んで、榎本さんは中に引きずり込んだ。
抵抗はしなかった。
始めからそのつもりだった。
たぶん、あの瞬間から。
青山通りで出逢い頭に衝突した、あの瞬間から。
あたしはこうなることを予感していたのかもしれない。
ドアが閉まる。
「あの」
と同時にあたしの声は榎本さんの唇に塞がれた。
足元にはらりと空を切りながら1万円札が落ちる。
バッグを投げ出して首に腕を巻き付かせると、彼はそれに応えるようにカメラを側の台に置き、更に深いキスを返してきた。
室内は暗く、絵の具と不思議な薬品の匂いがした。
あたしのコートのボタンを器用に外しながら、榎本さんが囁く。
「ベッド、ソファ。どっちがいい?」
あたしは彼の上着を剥ぎ取りながら、首を横に振った。
「ここでいい」
「分かった」