恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
空き家のような物静かさ。


息が混じり合うほどの距離で、彼はあたしの視線を受け止めて笑った。


ぞくぞくした。


そして、あたしは自ら唇を重ねた。


触れるだけのキスはたちまち深くなり、あたしたちは雪崩れ込むように倒れ込んだ。


そしてそのまま毛足の長いラグ絨毯の上で抱き合った。


数時間前に会ったばかりのよく知りもしない男に抱かれる。


そんな自分をなんて節操のない女なのかと罵りながら、あたしはそのぬくもりに溺れた。


抱き方は彼そのものだった。


回りくどくなく、ストレートでフランクで、ダイレクトで。


直情的な。


彼の生き方を表しているようだった。


気を使った優しい抱き方をされるよりマシだった。


追い掛けると逃げて、追い掛けるのを諦めると絶妙なタイミングで捕まえられる。


つかめそうでつかめない。


自由気ままな抱き方に、あたしは翻弄された。


その抱き方に救われたのかもしれない。


誠実な抱き方だったから。


行為を終えると、彼はあたしを抱き抱えてベッドに運んでくれた。


冷たいベッドの中であたしたちは裸のまま体を寄せ合った。


もしかしたら、ここは日当たりのいい部屋なのかもしれない。


シーツからおひさまの匂いがした。


榎本さんがあたしの頭を胸に抱き寄せる。

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