恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「“最初のひと目で恋を感じないなら、恋というものは存在しないだろう”」


「何ですか、それ。榎本さんのポエム?」


あたしは気だるい体を彼に預けてクスクス笑った。


「知らない?」と榎本さんがあたしの髪の毛を指ですきとかす。


「イギリス劇作家マーロウの言葉」


あたしはふうんと返しながら、なるほどと妙に納得した。


なら。


あたしはこの人に恋を感じたのかもしれない。


初めて会ったあの瞬間に。


あたしは現実から目を反らしたくて、彼の胸に潜り込んだ。


「どうしたの?」


「泊まっていってもいいですか? 明日は休みなんです」


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「ゆっくり寝るといい」


彼はそれ以上何も言わず、両手であたしを抱きすくめた。


あたしたちはおそらく、ほとんど同じタイミングで眠りに就いた。











あったかい。


ゆっくり目を開くと、隣にあったはずの榎本さんの姿はなかった。


カスタードクリーム色のカーテンを通して、冬の薄い光が差し込んでいた。


頭が痛い。


うっと声を漏らし頭を押さえて、昨晩飲み過ぎたことを後悔した。

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