恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「現像したんですか?」


尋ねると、彼は背を向けたまま答えた。


「うん。この約2年の集大成をねー。さっき仕上がったばっか」


タフな人だ。


昨晩あんなに飲んでいたのに、何時に起きたのだろう。


部屋に入ってもいいか聞くと、榎本さんは作業しながら「ご自由にどうぞ」と言ってくれた。


壁中に所狭しと貼り巡らされている写真は、とにかく言葉にできないくらいどれもこれも美しくて。


時には幻想的で。


うっとりとしたため息がとめどなく漏れた。


「榎本先生、これは?」


「あー、それはだねー」


「先生、こっちは?」


「よくぞ聞いてくれた。それは……」


どこの国の建造物なのか風景なのか。


あたしの質問ひとつひとつに、榎本さんは熱心に答えてくれた。


旅の話を交えながら。


話はとにかく面白くて楽しくて、まるで現地に足を運んでいるような気分に陥った。


アメリカ、グランドキャニオン。


ジンバブエ、ヴィクトリアの滝。


ブラジル、イグアス国立公園。


イエメン、ソコトラ諸島。


チリ、ラパ・ヌイ国立公園のモアイ像。


行く先々で起こった珍事件に笑い、危険な目に遭ったことを聞いてハラハラしたり。


1枚1枚を見て回っていると、あたしの目は磁石に引き寄せられるように、その1枚に止まった。
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