恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
世界遺産の建造物や風景ばかりの中、その1枚だけが明らかに違っていた。


青空をバックにどこまでも広がる花畑の写真。


雪景色のように真っ白な花畑だった。


「この写真、どこで撮ったの?」


榎本さんは作業しながらちらりと見て、やわらかく微笑んだ。


「ああ、それ北海道。北海道のどこだったっけな。でも、確かに北海道」


ふうん、とあたしはその写真を見つめた。


北海道、か。


海斗が生まれたところだ。


胸の端っこがしくりと痛む。


「この写真の花、なんていう花?」


「ラベンダー」


「ラベンダー? これが?」


「そ。ラベンダー」


さらっと答えた彼の横顔に、あたしは笑いながら言った。


「嘘つき。またテキトーなこと言って」


「嘘じゃないって。本当にラベンダー」


「でもこの花、紫色じゃないよ」


「えっ」


知らないの? 、と榎本さんが作業を中断してあたしの隣に並んで、写真を指差す。


「白いラベンダーもあるんだよ」


嘘をついてるんじゃないか、とじっとり見つめると彼は目を細めてぬうっと顔を近付けてきた。


「あっ、何、その疑り深い眼差し」


「だって。見たことないし。白いラベンダーなんて」

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