恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
あたしが頷くと、榎本さんは「持ってっていいよ」と言ってくれたけど断った。


「綺麗だけどいいです」


悲しくなるから。


これを持っていたらきっとあたしは、今以上に海斗のことばかり考えてしまうと思う。


「あ。そうだ、これ」


うつむいたあたしに、榎本さんが差し出したのは写真だった。


写真を受け取り視線を落とす。


「これ……」


昨日、ユキナ・ヒイラギのショップ前で撮られたものだった。


「これも現像したんですか?」


「どうだ。けっこう良く撮れてるだろ」


あの時、あたしはウエディングドレスの眩しさに心を奪われて、表情がほころんでいたはずだった。


確かに口元は笑っているのに、その目はどこかもの悲しげに見えた。


大袈裟に言えば、泣いているようにさえ見える。


「記念にあげるよ」


とテーブルに戻ろうとした榎本さんの腕をとっさに捕まえた。


「あの」


「何?」


「あの、あたし……こんな顔してましたか?」


衝撃だった。


毎日、鏡で見ているはずの自分の顔。


「あの時、あたし、こんな顔してました?」


他人の……榎本さんの目にはこんな表情に見えていたのかと思うと、衝撃だった。


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