恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「してたんだろうなあ」


榎本さんはあたしから写真を取り上げて、じっと見つめながら言った。



「だから、写ってんだろうなあ」


ふと、昨晩、タクシーの中で榎本さんが口にした言葉が耳の奥深くによみがえった。


――写真は嘘を付かないから。真実を写すから


あれは、こういうことを意味していたのかもしれない。


「ほら」


差し出された写真を受け取り、昨日の自分を見つめながらぽつりと呟く。


「あたしね、待っている人がいるんです」


「……へえ」


「18の春からずっと。6年も待ってるのに迎えに来てくれないの。本当は分かってるんです。もう期待しちゃいけないことは。でも、バカみたいに待ってるんです、あたし……疲れちゃった」


この6年間、誰にも打ち明けられずに胸に秘めていたものが、せきを切ったように溢れ出た。


「分かってるの。奇跡は起きないことくらい。分かってるのに諦め切れなくて……意地になって待ってたら6年経ってて。最近はもう分からなくなっちゃった。何のために待ってるのかさえ分からなくなっちゃった」


今にも泣き出しそうなあたしの頭をぽんと弾いて、榎本さんは小さく笑った。


「ばかだなあ」


あたしは泣きそうなのを我慢して、榎本さんを睨んだ。

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