恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
「なんで笑うの」


「だってお前、分かりやす過ぎ」


「……え?」


「泣けばいいのに」


そう言って、榎本さんはもう一度あたしの頭をぽんと弾いて、テーブルに戻り作業を再開させた。


白いラベンダー畑の写真を見つめるフリをして、実は必死に涙をこらえるあたしの背後で。


榎本さんはあたしに何も聞いて来なかったし、ずっと作業に没頭していた。


ズカズカと人の心に土足で踏み込もうとしない彼の優しさが、あたしには心地よかった。


そのつかず離れずの距離感を作ってくれた彼の温かさが、ありがたかった。


世の中にはこういう形の優しさもあるのだと、初めて知った。











その後、榎本さんが近くのスーパーで色々と買い込んで来た食材で昼食を作った。


久し振りに和食が食べたくて仕方ないと言ったので、ご飯を炊き、お味噌汁を作り、定番の出汁巻き卵と肉じゃがを作った。


「うまい! 何これ!」


2年振りの和食だと言って、榎本さんは笑み崩れた。


「何って、ただの肉じゃがですけど」


「陽妃、お前、天才だな」


もともと料理は得意じゃないだけに、誉められるとくすぐったくて仕方なかった。


「……大袈裟です」


「いやー、これでもっとこうグラマラスな体ならなお最高なんだけ――」


「最低!」


そして、シャワーを借りて、服が乾いた頃にはもう夕方になっていた。
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