恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
昨日初めて会ったばかりで、お互いに良く知りもしない間柄なのに。
「僕たちは昨日、きっとただならぬ関係になりました。違いますか?」
不意打ちだった。
「でも、榎本さ」
と言いかけたあたしの声は、彼の唇で塞がれてしまった。
静かに唇が離れる。
「陽妃」
彼は言った。
「潤一。そう呼んでくれるとありがたいのですが」
あたしはこくりと頷いた。
うん、と彼も頷いた。
「じゃあ、また」
アトリエを出て、ドアを閉める。
鍵をバッグにしまい、あたしは歩き出した。
夕暮れ迫る、冬の青山通りを。
そのあと、その足で美容室へ行った。
6年振りに髪の毛を切ろうと思い立ったのだ。
18歳の春、里菜に切ってもらった時と同じくらい短くした。
美容室の帰り道、背中に羽根が生えたような気分だった。
6年の呪縛、なんて言ったら大袈裟だけど。
やっと解き放たれたような気がした。
待ち続ける日々から解放される日なんて、きっと来ない。
それは分かっていたけど。
あたしは大きな荷物を下ろしたような深い溜め息をついて、その夜、眠りに就いた。
「僕たちは昨日、きっとただならぬ関係になりました。違いますか?」
不意打ちだった。
「でも、榎本さ」
と言いかけたあたしの声は、彼の唇で塞がれてしまった。
静かに唇が離れる。
「陽妃」
彼は言った。
「潤一。そう呼んでくれるとありがたいのですが」
あたしはこくりと頷いた。
うん、と彼も頷いた。
「じゃあ、また」
アトリエを出て、ドアを閉める。
鍵をバッグにしまい、あたしは歩き出した。
夕暮れ迫る、冬の青山通りを。
そのあと、その足で美容室へ行った。
6年振りに髪の毛を切ろうと思い立ったのだ。
18歳の春、里菜に切ってもらった時と同じくらい短くした。
美容室の帰り道、背中に羽根が生えたような気分だった。
6年の呪縛、なんて言ったら大袈裟だけど。
やっと解き放たれたような気がした。
待ち続ける日々から解放される日なんて、きっと来ない。
それは分かっていたけど。
あたしは大きな荷物を下ろしたような深い溜め息をついて、その夜、眠りに就いた。