恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
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陽妃 へ
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ちょっと行ってきます
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帰ったら肉じゃが作ってくださ
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榎本先生より
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それを見て笑ってしまった。


まさか本当に突然、近所のコンビニに行くみたいにぷらーっと居なくなるとは、思ってもみなかったから。


次はいつ頃日本を離れる、とか、どこへ行く、だとか。


居なくなる前に何かしら事前報告くらいはあると思っていたから。


だから、あたしはアトリエでげらげら笑ってしまった。


「ノラネコだ」


しかも、これがかなりの大ほらふきで。


冬が過ぎて春になって、梅雨が明けて夏になっても、潤一は帰って来なかった。


“ちょっと行ってきます”


これのどこが“ちょっと”なのだろう。


あたしは25歳になっても相変わらずトルテで働いていた。


季節がひと回りして、1年経って、また表参道が金色になっても潤一は帰らなかった。


ところが、その写真葉書は突然届いた。


まるであたしの気持ちを確かめるかのように、突然。


秋が終わって、冬の始まりだった。

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