恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
店内を見渡す。


思ったより空いている。


2組のカップルと1組の女の子たちがいるだけだ。


早く来すぎてしまったかもしれない。


葵ちゃんと一緒に来ると海斗は手紙に書いていたけど。


そういえば、葵ちゃんと会うのも久し振りだ。


きれいになってるんだろうなあ、と思いを馳せていた時だった。


あたしの視線は店の入り口を捉えた瞬間、吸い寄せられるように止まった。


ドクリ、と心臓が止まりかけた。


入って来たのは海斗だった。


10年ぶりに見る姿だった。


初めて見るスーツ姿の海斗はぐっと大人びて、垢抜けたように思えた。


店員に案内されて来た海斗が、切れ長の目を半分にして微笑む。


「お久しぶりです、陽妃さん」


綺麗に一礼した海斗の仕草ひとつひとつは紳士的で、その独特で物静かなオーラが懐かしくて、まばたきさえできなかった。


「10年ぶりですよね」


「そうだね」


向こうのテーブルの女の子たちが、海斗を見てきゃあきゃあ言っている。


分からなくもない。


もともと整った顔立ちの海斗は10年経って、落ち着きのある慎ましやかな色気がにじみ出ていた。

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