蝉鳴く季節に…

顔を上げた杉山くんは、ビー玉みたいな瞳を細め、私を見つめている。





｢杉山夏生……くん？｣

｢うん、そうだけど｣




彼は眉を跳ね上げ、小鳥みたいな仕草で首を傾げた。





｢あ…あの……私…知らないだろうけど、高校のクラスメイトなの。水谷千秋…でね、あの…濱田先生に頼まれて、これ…渡してって…｣



何を話していいのか分からず、私は持っていた紙袋を彼の前に差し出した。

想像と違っていたから、何か調子狂う…。







｢え？俺に？｣



彼は身を屈め、私が持っている紙袋をひょいと覗き込んできた。

思わず、後退りしそうになるのをこらえる。





だって……近い…。






｢うわ、先生。本当に用意してくれたんだ｣




紙袋の中身を確認した彼の、表情の堅さがやんわりと抜けていく。

口元を緩めた彼の瞳には、優しい穏やかな色が揺らめいていた。



まるで、太陽の光を含んで光る水面みたいな…。








何だろう。


彼の幼く、無邪気さが残る笑顔に、緊張していた気持ちが、するすると解けていくのを感じた。







何だろう…この……ふわふわした感じ……。