蝉鳴く季節に…
杉山くん。


あの時の私はね。



多くを望んではいなかったよ。






ただ、一緒にいたかったの。


一緒にいて、小さな幸せを二人で見つけて、同じ季節を、景色を、感じていたかったんだ。








例えばね?

夏は蝉の声や夕焼け、夕立の後、水蒸気が上がるアスファルトの独特の匂いとかね。


秋は涼しい風に揺れる稲穂の黄金色、色付く草花や鈴虫の鳴き声。


冬はね、雪の匂いや冷たさ、夜空の星の美しさ、軒先に下がる氷柱の水晶みたいな輝きとか。


春は暖かい大気、桜の花の鮮やかさ、分厚いコートから解放された清々しさとか。




学校では、グラウンドの土の匂いとか、昼休みの賑やかさとか、午後の日差しの温もりとか。





そういう日常をね、杉山くんと感じていきたいと思っていたんだ。




当たり前に過ぎる日常でも、そこに杉山くんがいれば、私は幸せになれたんだ。






それでも、贅沢だったのかな?


望みすぎていたのかな?









ね?杉山くん。







私は、あなたと手をつないで、毎日を過ごしていたかっただけなのに。






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