蝉鳴く季節に…
「……ごめん…何か俺、変だな」




うつむきながら、杉山くんは呟く。






変じゃないよ。


杉山くんは変じゃないよ。








「水谷、もう帰らなきゃヤバイな」

「…そんなの」

「ダメだよ。暗くなるからさ」





女の子一人は危ないだろ?

そう言って顔を上げた杉山くんは、笑ってた。



その表情が、思っていたよりも清々しく感じたから、私はほっとしたんだ。







ほっとしてしまったんだ。








「明日も来るから」

「うん、待ってるよ」





離れたくない。


感情は破裂しそうなくらいに膨らんでいたけれど、待ってるって言葉を聞いて、私は椅子から立ち上がった。



病室のドアへと向かい歩く。







「水谷」







呼び止められて、振り向いた。





振り向いた瞳に飛び込んできたのは、杉山くんの笑顔だった。






無意識に、呼吸が止まるのを感じた。






瞳を細めたくなるくらいの、目一杯の笑顔。



初めて会った時みたいな、生命力を感じる笑顔。







杉山くんだ。




なぜか、そう思った。
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