蝉鳴く季節に…
会場の中、むせ返る様な線香の香り。


たくさんの啜り泣く声。


悲痛な空気。





私はただ、唇を噛み締めていた。








飲まれちゃいけないって、この空間に飲まれちゃいけないって……。








飲まれたらきっと………私は………全てを認めなきゃいけなくなるんだ。







夢も、幸せも……杉山くんとの未来も………もう望めないものなんだって認めなきゃならなくなるんだ。





杉山くんとは、過去でしか会えないんだって認めなきゃならなくなるんだ。











だから泣いちゃいけない。


絶対に泣かない。






心を、閉ざさなきゃ。


感情を凍らせるんだ。









受け入れるもんか。


信じるもんか。











杉山くんは帰って来るよ。



また、水谷って呼んでくれるよ。





笑いながら、頭を撫でてくれる。








だって、おかしいよ。



頑張っていれば報われるんだよ。


だから杉山くんが死ぬ訳ないよ。









頑張ってたよ。



杉山くんは、いつも頑張っていたもん。










だから、私は認めないよ。






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