蝉鳴く季節に…
あれ……あれは…この事を示していたんだ……。









じゃあ……じゃあ……。










杉山くんは、知っていたの?




自分が癌だって……知って……。









「目を先に治療しないと失明する、そう医者に言われたのよ。肺の放射線治療を一時中断して、目を先にやりましょうって」

「……そんな……両方はできなかったんですか……」

「両方同時進行は無理なんですって。効果は望めないそうよ。私は、夏生にそれを話したの。必ず効果を得る為には、どちらかを選ばなければいけないと」





おばさんは、瞳を伏せた。






「あの子…悩んでいたわ。目の治療が始まった後も、ずっと悩んでいた」












だから………だから杉山くんは聞いてきたんだ。







私に………。


私ならどうするって…。








「でもね、予想以上に癌の進行は早くてね…肺はもう、手の施し様が無かった…。痛み止めで、せめて苦痛から遠ざけてやる事しか…」







痛み止め………。







私の脳裏に、病室の景色が浮かぶ。








杉山くんの白い腕に繋がれた点滴……一つだけ……。



痛み止めだけ……。



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