蝉鳴く季節に…
「私は、ただ…あの子が生きていてくれさえすれば良かった。あの子も諦めなかった。たとえ可能性が低くても、信じるしかなかった。なのに……私はわからないのよ。先に目を治療した事は、正しかったのか……」






うつむいたおばさんの瞳から、数滴の雫が落ち、喪服に染み込んでいった。








私は、更に強く唇を噛み締めた。










………気付けなかった。




私は、杉山くんの苦しみに気付けなかった。





あんなに毎日話していたのに、何も気付いてあげられなかったんだ。










私……何をしていたの?





何もしてないじゃない。





ただ、自分が会いたいから……そんな自己満足でしか動いていなかった。











だから、気付けなかった。







気付こうとすらしていなかった。














私は、泣かないなんて言えない。



泣いちゃいけないんだ。




泣く資格は無いよ!




杉山くんの為に……何もできなかった私は、泣いちゃいけないんだよ!








………堪えた。


唇が切れるくらいに噛み締めて。





お願い………涙なんか出てこないで!




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